南シナ海の仲裁判断を中国は拒否、大使「争い激化させる」

南シナ海判決:「判決を支持」インド外務省

南シナ海問題を巡り、オランダ・ハーグの仲裁裁判所が中国の主張は無効だとする判決を下したことを受け、インド外務省は12日、「インドは国連海洋法条約に明白に反映されている国際法の原則に基づき、航行・飛行の自由と円滑な貿易を支持する」との声明を出し、判決を支持する姿勢を示した。声明では、各国が軍事力などに頼らず「平和的な方法で解決すべきだ」と指摘し、「全ての当事者に対し、海洋の国際的な法秩序を構築する国連海洋法条約を最大限尊重するよう求める」と主張した。

 インドは2014年、隣国バングラデシュと争っていたベンガル湾の境界を巡り、問題の海域の約8割がバングラ側だとする仲裁裁判所の判断を受け入れた経緯がある。

 一方、中国の友好国パキスタンの外務省報道官は12日、「(仲裁裁判所の管轄外とする)中国の声明を尊重している。域外の国々は中国と東南アジア諸国の努力を尊重し、南シナ海の平和と安定を守るべきだ」との声明を出し、中国を支持する姿勢を明確にした。

南シナ海の仲裁判断を中国は拒否、大使「争い激化させる」

オランダ・ハーグの仲裁裁判所が12日、中国が南シナ海で主権を主張している独自の境界線「九段線」に法的根拠はないと認定したことを受け、中国の崔天凱駐米大使は同日、この裁定は「争いを激化させる」と反発を示した。

崔大使はワシントンで開かれた国際会議で、中国政府は南シナ海の領有権をめぐる他の当事者との交渉を今後も続けると表明し、同海域で緊張が高まっている原因は、米国がここ数年間にアジア重視路線に転換していることにあると指摘した。

また、今回の仲裁裁判所の裁定は「おそらく仲裁手続きの乱用につながる」と懸念を表明。「争いの解決に向けた交渉に関わる国の意欲を低下させる」だけでなく、「争いを激化させる」と語った。

一方、米国は、仲裁判断は最終的かつ紛争当事国を法的に拘束するものと見なすべきであり、緊張を高める理由にしてはならないとの見解を示した。

アーネスト米大統領報道官は「判断を挑発行為に関与する機会として用いないよう、すべての当事者に求める」と呼びかけた。

これに先立ち、国務省のカービー報道官は「南シナ海における紛争の平和的解決という共通目標に大きく貢献するもの」と語った上で、「米国はすべての当事者がそれぞれの責務を順守するよう希望する」と述べた。

また同報道官は、中国がこの数週間、南シナ海で軍事化を継続している兆候を確認していると明らかにした。

これに対し、中国国営新華社通信によると、中国政府は国務省報道官の声明に強い不快感を表明。外務省の陸慷報道局長は米国の声明に強く反対するとした上で、米国の行為は法の精神や国際法の規範に反するもので、領土問題において一方だけ支持しないとの宣言にも逆行していると述べた。

米大統領選で民主党候補指名が確実となったクリントン前国務長官は12日、南シナ海は米国経済にとって「決定的に重要」と述べ、今回の裁定を歓迎する姿勢を示した。ロイターに公表した声明で「全関係勢力が今回の判断を順守し、引き続き平和的かつ多角的な紛争解決を模索していくことが重要」と述べた。

<中国の主張「根拠なし」>

仲裁裁判所は、中国が南シナ海の約9割近くについて主権が及ぶと主張する独自の境界線「九段線」について、同国には同海域内の資源に対する歴史的な権利を主張する法的な根拠はないとの判断を下した。

また、中国当局の警戒行動はフィリピン漁船と衝突するリスクを生じさせたほか、人工島などの建設活動によりサンゴ礁に回復不能な損傷を与えたと指摘。南沙(スプラトリー)諸島で中国が実効支配したり保有したりするものはどれも、排他的経済水域(EEZ)を設定する資格はない、とした。

同裁判所は裁定を執行する権限を持たないが、申し立てを行ったフィリピンの勝利は、南シナ海で領有権を争う他の当事国である台湾、ベトナム、マレーシア、ブルネイを刺激する可能性がある。

この裁定に対し中国外務省は、中国人は同海域で2000年以上も活動してきた歴史があり、EEZの設定は可能と主張。仲裁裁判所の判断を受け入れない考えをあらためて示した。

中国は南沙、西沙(パラセル)諸島を含む南シナ海の島々に対する主権を有し、中国の立場は国際法と国際慣行にのっとっていると強調している。

中国の王毅外相は、今回の動きは始めから終わりまで茶番であり、緊張や対立を深める結果となったとする一方、状況を正しい軌道に乗せる時期が来ており、フィリピンのドゥテルテ新政権は関係改善への対応に誠意がうかがえると述べるなど、融和的な姿勢もにじませた。

フィリピンのヤサイ外務相は記者会見で「この重要な判断が及ぼすものについて慎重かつ徹底的に精査している」とした上で「関係国・地域に対し自制と誠意を求める。フィリピンは今回の画期的な決定を強く支持する」と述べた。

日本政府は仲裁判断が最終的なもので、紛争当事国を法的に拘束するとの見方を示した。ベトナムな歓迎する意向を表明する一方、台湾は受け入れないとした。マレーシアは、領有権問題は外交的、法的な手続きによって解決可能だとしている。

国連の潘基文(パン・ギムン)事務総長は、すべての当事国が「国際法にのっとり、平和的かつ友好的な対話を通して」問題を解決するよう求めた。

<戦略的敗北との声も>

フィリピンによる中国に対する提訴は、南シナ海の領有権をめぐる争いで、初めて法的に異議を申し立てた事例だ。中国は「茶番」として、聴聞会への参加を拒否してきた。法律専門家やアジア政策の専門家は、もし中国が反発的な態度を取り続け、裁定を無視するなら、国際法を侵害するリスクを冒すことになると指摘する。

国際法の専門家は、裁定が中国の主張に法の一撃を食らわせたと述べ、米国、中国、東南アジアは危険な岐路に立っていると指摘する。「これはフィリピンにとって戦術的勝利であり、国際法にとっては戦略的敗北だ」と、米国の元外交官チャス・フリーマン氏は語る。同氏は1972年当時、ニクソン米大統領の歴史的な訪中時に通訳を務めた。

「今回の裁定は、問題が武力行使によってしか解決できない状況に陥らせた。進行中の外交的プロセスはなく、今となっては法的プロセスもなくなってしまった」と同氏は言う。

また、上海交通大学の国際法教授であるジュリア・コイファン・シュエ氏は、主権と安全保障に対する中国の過敏な反応を考えると、「中国が自国の主張を強固なものにしようと、新たに何らかの行動を取っても驚きではない」と話す。

ISEASユソフ・イシャク研究所のイアン・ストーリー氏も、「南シナ海の管轄権を主張する中国にとって、今回の判断は法律的に大打撃で、中国は今後、間違いなく激しい怒りを表明してくるだろう」と語り、「南シナ海で一段と積極的な行動をとる可能性もある」と警戒を示した。

中国各紙、南シナ海判決に一斉反発 比大使館周辺は厳戒

南シナ海での中国の権利を否定する常設仲裁裁判所の判決から一夜明けた13日、中国各紙は一斉に判決を強く批判した。判決の具体的な内容にはほとんど言及せず、提訴したフィリピンの前アキノ政権や仲裁裁判手続きへの非難を強調することで、国内の不満の矛先をかわす狙いもあるようだ。

 中国共産党機関紙・人民日報は1面から3面にかけて「中国は南シナ海の主権と海洋権益を断固守る」と題した記事や「ただの政治の茶番だ」などと判決を批判する社説を掲載。記事では「中国は将来、領土主権を守り、海洋権益の侵犯を受けないために必要なあらゆる措置を取る」と主張した。

 中国軍機関紙・解放軍報も1面から4ページにわたり判決に関する政府の立場を説明する記事を掲載。1面には「違法な判決を使い、中国の主権を奪おうなどと考えるな」と題する論評を載せ、「判決に断固反対する。中国軍はいかなる威嚇や挑発にも対応する能力がある」などと強調した。

 一方、北京のフィリピン大使館周辺では12日夜から多くの警察官やパトカーが待機し、厳戒態勢が敷かれたほか、13日朝も周辺の道路が一部封鎖され、近づけない状態が続いた。日本大使館周辺も通常より警官やパトカーが多く配備されるなどピリピリした空気に包まれ、当局がデモ行為などが起きないよう警戒している様子がうかがえた。

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