英離脱で国内外の混乱続く、投票やり直しの請願350万人超に
23日に行われた英国民投票で欧州連合(EU)離脱が決定した英国では、政治的な混乱が続いている。世論の分断は拡大し、国民投票のやり直しを求める署名は350万人を超えた。
英議会のウェブサイトに集まった国民投票のやり直しを求める署名は350万人超に急増している。議会は10万人を超える署名を集めた請願については議論を検討しなければならないが、法的強制力はない。
国民投票で残留支持が多数を占めたスコットランド行政府のスタージョン首相は、スコットランドで英国からの独立の是非を問う住民投票を再び実施する可能性は非常に高いと言明。英国がEU離脱を決めたのに伴い、スコットランドをEUに残留させるために必要なことを行う意向も示した。
国民投票後に実施された英サンデー・ポスト紙による世論調査では、スコットランド住民の59%が英国からの独立を支持すると回答。2014年の国民投票での英国からの離脱票45%をはるかに上回った。
EU離脱なら英国経済への悪影響は政府の予想以上となる可能性があるとの認識を示していたオズボーン英財務相は、経済政策上の対応について、27日の取引開始前に声明を発表する。
一方、離脱派を主導し、辞任を表明したキャメロン首相の後継との観測が浮上しているボリス・ジョンソン前ロンドン市長は、英国は今後もEU単一市場へのアクセスを維持する、との考えを示した。
英国内政治の混乱は、野党・労働党にも及んでいる。残留支持を訴えていたコービン党首の責任を問う声が強まるなか、26日までに同党の「影の閣僚」12人が党首への支持を撤回した。
<各国の反応>
EUの2大加盟国であるドイツとフランスの外相は週末に共通の立場を強調する共同声明を出したが、今後の英国への対応をめぐる両国の政治家の意見には大きな隔たりがみられた。
欧州の多くの当局者は、EU市民の支持を取り戻し、右派の大衆迎合主義の台頭を抑え、EUの崩壊を回避するにはEUの変革が不可欠と感じているが、ここにきて変革に向けた独仏の協調が困難な可能性が浮上している。
メルケル独首相は週末に行われた所属政党の会合で、離脱プロセス開始のための最初の手続きである「EU条約第50条」の行使を英国が急ぐ必要はないと発言。
ドイツ政府にとっては英国との関係悪化を避けることが最優先であり、国民投票結果の撤回を期待する声さえ一部である。
ドイツのある政府高官はロイターに対し「EUは英国に圧力を掛ける手段を持っているが、それを重視すべきではない。これまでの経緯を認識する時間が必要だ」と語った。
一方で、フランス政界からは英国とは即刻決別すべきとの意見が出ており、ブレグジットはフランスがEUでの主導権を回復する機会との指摘もある。
メルケル首相は27日、パリでオランド仏大統領、トゥスクEU大統領、イタリアのレンツィ首相と会談し、28日からのEU首脳会議より前に共同声明の策定に取り掛かる予定。
また、英国が国民投票でEU離脱を決定したことを受け、中国政府高官からも発言が相次いだ。
楼継偉財政相は、アジアインフラ投資銀行(AIIB)の初の年次総会で、市場の不透明感が高まったと指摘。「ブレグジット(英国のEU離脱)の決定は世界経済に影を落とす。その影響は今後5─10年にわたって及ぶだろう」と語った。
中国人民銀行(中央銀行)の元金融政策委員で清華大学教授の李稲葵氏は、中国はブレグジットの影響を最も受けない国の一つとの見方を示し、「唯一考えられる短期的な影響は人民元の為替レートだが、それも数営業日以内で急速に収まるだろう」と語った。
英国のEU残留支持を示していた米国のケリー国務長官は、27日にブリュッセルとロンドンを訪問する。ある高官によると、ケリー氏は他のEU加盟国に対し、英国に従わないことの重要性を強調する意向だという。
一方、ライス米大統領補佐官(国家安全保障担当)は、英国の欧州連合(EU)離脱決定に伴う安全保障上の直接の懸念は「比較的少ない」との認識を示した。
米国と英国は「最も緊密なパートナーであり同盟国であり続ける」とし、北大西洋条約機構(NATO)加盟国が連携する必要性はさらに強まると同補佐官はコロラド州の会合で語った。
英国に浮上の新たな選択肢「EU離脱撤回」は実現可能か?
欧州連合(EU)を離脱するという英国民の重大な決断に、国内には大きな衝撃が走った。英国の政界にも、そして国全体にも、その衝撃の余波は広がり続けている。
英国の主要政党はいずれも混乱に陥っている。デービッド・キャメロン首相の辞任表明を受け、与党・保守党では党首選挙の準備が進行中だ。一方、最大野党・労働党では「影の内閣」の閣僚のうち3分の1近くが”辞任”。保守党以上の大混乱となっている。
そのほか、スコットランド自治政府のニコラ・スタージョン首席大臣は、英国からの独立の是非を問う住民投票を、できる限り早急に実施する方針を示した。
こうした状況のなかで、実現の可能性が薄れつつあることが一つある──「英国のEU離脱」だ。
「残留派」巻き返しの可能性
EU離脱に向けた正式な手続きは、離脱を希望する加盟国がリスボン条約第50条に基づき、EUとの協議開始を要請して初めて着手される。キャメロン首相は今年10月までに就任する次期首相が行うべきだとして、自らはこの要請を行わない考えだ。
そのため、離脱協議はすぐには始まらないとの見方が広がり始めている。法律問題に関する批評で高く評価されている「ジャック・オブ・ケント」も、無期限延期の可能性を示唆した。
考え得るシナリオの一つが、保守党の新たな指導部が協議の開始前に総選挙を実施し、あらためて国民の信任を問うというものだ。
その場合、EUへの残留・離脱が重要な争点になることは間違いないだろう。そして、仮に残留派(恐らく新たなリーダーが率いる労働党)が勝利すれば、「離脱」は英国の政治における”議題”から外されることになる。
こうした状況は、「非民主的」のように思えるかもしれない。だが、残留派の政治家たちは、今回実施された国民投票の結果を無視すべきだと主張する訳ではない。「実際に離脱する前に、今回の結果を見直す機会を国民に提供する」と説明する必要があるだけだ。
国民投票のやり直しは費用もかかるうえ、国民を再び敵対させ、大半の人たちにとっては耐え難いものとなるだろう。だが、総選挙となれば話は別だ。
離脱決定の影響は計り知れず
国民投票の結果を受けての急激なポンド安と株価の下落は、観測筋の大方を当惑させている。だが、実質的な影響の大きさが明らかになるまでには、まだ時間がかかるだろう。
ただし、すでに目に見え始めた影響もある。一部の銀行は、英国内の従業員を欧州域内の別の拠点に移動させる可能性に言及した。国際企業はEU単一市場との長期的な関係が明らかになるまで、英国への大規模な投資に関する決定を先送りにするだろう。また、農業団体は輸入食品にかかる関税率の引き上げが、価格の高騰につながると警告している。
こうした要因が、EU離脱に対する英国民の支持を減らす可能性は十分にある。
スコットランドで独立を目指す二度目の住民投票が行われれば、欧州各国の指導者たちは「EUには依然、推進力がある」ことを示すために、前回よりもスコットランドに同情的な態度を示すかもしれない。
英EU離脱:公約「うそ」認める幹部 「投票後悔」の声も
欧州連合(EU)離脱を決めた英国の国民投票を巡り、離脱派の主要人物が訴えてきた公約の「うそ」を認め、国民から強い批判が出ている。ツイッターでは「離脱への投票を後悔している」という書き込みがあふれ、英政府に2度目の国民投票を求める署名は350万人を突破した。
「離脱派のキャンペーンで起きた間違いの一つだ」。離脱派を引っ張ってきた一人、英国独立党(UKIP)のナイジェル・ファラージ党首が24日のテレビ番組であっさりと間違いを認めたのは、英国がEU加盟国として支払っている拠出金の額だ。
投票前、離脱派は拠出金が週3億5000万ポンド(約480億円)に達すると主張していた。与党・保守党のボリス・ジョンソン前ロンドン市長らが全国を遊説したバスの側面にも、巨額の拠出金を「国民医療サービス(NHS)の財源にしよう」と書かれていた。
一方で残留派は、EUから英国に分配される補助金などを差し引くと、拠出金は「週1億数千万ポンドだ」と反論。ファラージ氏は番組で残留派の主張が正しいことを事実上、認めた。
また、離脱派はEU加盟国からの移民制限を主張していたが、離脱派のダニエル・ハナン欧州議会議員は24日のテレビ番組で、「移民がゼロになるわけではなく、少しだけ管理できるようになる」と、「下方修正」した。離脱した英国が今後、EUと貿易協定を結ぶためには「人の移動の自由」が条件になる可能性があり、こうした交渉を見据えた発言とみられる。
だが、国民投票で離脱が決まった直後の訂正だけに、国民の怒りは爆発。ツイッターでも「うそを信じてしまった」と離脱に投票したことを後悔する書き込みが増加した。離脱派が主張していた「BREXIT(ブレグジット)」(英国<BRITAIN>と離脱<EXIT>の造語)に絡め、REGRET(後悔)とEXITを組み合わせた「REGREXIT」(リグレジット)や、BRITAINとREGRETを足した「BREGRET」(ブリグレット)という造語も生まれ、ツイッターなどで使われている。
再投票を求める請願の署名は23日の投票前から始まり、26日夜時点で350万人を超えた。「残留または離脱の得票率が60%未満」で、「投票率が75%未満」だった場合、2度目の投票を実施するという内容だ。投票結果はこうした条件に合致するが、請願が認められる前に国民投票は終了しており、さかのぼって適用するのは難しいとみられる。
ただ、英下院で議論する対象になるかを決める要件の署名数の10万人を大きく上回っている。近く下院の委員会が議題として取り上げるかを協議する。