【衝撃事件の核心】「せこい」舛添氏と好対照…大胆すぎる〝公私混同〟 社福ワンマン理事長、13億円不正流用のカラクリ
特別養護老人ホームなどを運営する大阪府摂津市の社会福祉法人で5月、前理事長の男性(70)が約13億4千万円を不正流用していたことが明らかになった。法人や摂津市によると、金融機関から約11億7千万円を無断で借り入れて簿外で管理し、1億円以上を飲食代や古美術品の購入に流用。7億円余りは自ら設立した病院などの運営資金につぎ込んでいた。ワンマンといわれた前理事長は法人側に「わが法人の将来のために水面下で借金を重ねた」と説明したが、金の流れをみると、度を超した〝公私混同ぶり〟が浮かぶ。政治資金の公私混同問題で自ら辞職した前東京都知事の舛添要一氏が「せこい」なら、こちらはまさに「大胆不敵」だった。
妻のSOSで不正発覚
「夫が夜、眠れないと言っている。様子がおかしいんです」
1月中旬、前理事長(当時は現職)の妻からあわてた声で法人側に電話があった。すぐさま法人幹部が聞き取りをしたところ、前理事長は「実は内密にしていた負債がある。勝手に金を借りていたが、返せなくなった」と打ち明けた。
法人が調査を進めたところ、前理事長は平成16年から今年までの約12年間、法人名義で総額約11億7千万円を金融機関9行から無断で借り入れ、簿外口座で密かに管理していた。借り入れの際には、理事会の承認を得たように装った虚偽の書類を作成し、金融機関に提出する偽装工作までしていた。
法人が運営する診療所の資金約1億4千万円も簿外口座に入れていたが、前理事長が監査対象から外すよう指示していたため、今年まで発覚することはなかった。このほか、法人名義で企業や個人から借りて簿外口座に入れた約2080万円を合わせると、不正流用額は約13億4千万円に上った。
前理事長は1月下旬、退任した。
飲み代・掛け軸1億円超
一体、莫大な借入金は何に使っていたのか。
法人によると、金融機関からの借り入れが始まった16年ごろから、前理事長は法人の事業とは別に、個人で大阪府高槻市や大阪市、兵庫県などで老人ホームや病院など計6施設を設立。コンサルティング会社に運営を委託するなどし、それらの事業運営に約7億1千万円をつぎ込んでいた。しかし、大阪市の人工透析クリニックなどは経営が傾いて売却。残る施設も福井県の特別養護老人ホーム以外はすべて、昨年までに廃業に追い込まれた。
法人の調査に対し、前理事長は「将来的には(自分の事業を)法人の事業に加えるつもりだった」と釈明した。だが、流用先は事業だけではなかった。大阪の繁華街のバーでの飲食費や、掛け軸など古美術品の購入に約1億1千万円を充てていたことも認めた。
前理事長が法人に残した負債は少なくとも約12億7千万円に上る。法人名義で金を借りていたため、返済能力のない前理事長に代わって法人が背負うことになる。不幸中の幸いと言えるのか、法人に対して27年度に国や大阪府、摂津市から支出された補助金計約7600万円は流用された形跡がなかった。
法人は大阪府と摂津市に調査内容を報告。さらに弁護士らでつくる第三者委員会を設置して不正流用の経緯や金の使途を本格的に調査しており、前理事長を業務上横領罪で告訴する準備を進めている。
「誰もモノ言えぬ存在」
不正流用の舞台となった社会福祉法人は昭和27年、前理事長の父親が設立。前理事長は46歳だった平成4年、後を継いで理事長に就いた。
その後、保育園やデイサービスなどを次々と立ち上げては自らの権限を拡大。これまで年に複数回あった理事会の開催を年1回だけとすることや、約1億4千万円を流用した法人の診療所の口座を監査対象から外すことなどを決めた。法人職員の一人は「周囲がモノを言えない存在になっていた」と語る。
「社会福祉法人の理事長は工夫次第で私腹を肥やすことが可能だ。権力が集中する理事長らによって社会福祉法人が食い物にされる実態は確かに存在する」
大阪府内の別の社会福祉法人の男性理事はそう指摘し、社会福祉法人のトップはある種の“特権”を持っていると打ち明ける。
男性理事によると、社会福祉法人は、事業収入を社会福祉事業にしか原則支出できないなど資金の使途は規制されている。それゆえの信頼感からか、年度ごとに提出される「現況届」や都道府県の定期監査などで収支に不備が見つからなければ、不正経理が表面化することは少ないという。
一方で、理事長らが特権を生かして「袖の下」を受け取るケースもあるようだ。例えば、特別養護老人ホームでベッドや特殊な浴場設備などをリースで設置する場合、「契約を結んで毎月リース料を支払う代わりに、理事長ら経営陣が業者から毎月リベートをもらうこともある」(男性理事)という。
前理事長は、個人で運営していた病院の医療機器を業者からリースし、その代金にも不正流用した資金を充てていた。ただ、リベートを受け取っていたかは分かっていない。
行政の監督権限強化を
社会福祉法人の理事長らによる横領や不正流用は各地で相次いでいる。
兵庫県芦屋市の法人は今年6月、運営する保育園で、勤務実体がない理事長の母親が給与計約2200万円を受け取っていた疑惑が浮上。理事長の長女宅の家具などの購入代約170万円を園の備品購入代に偽装するなどして支出していたことも明らかになった。
また昨年4月には、大阪府高槻市の法人が運営する保育園で、元女性園長が領収書を偽造するなどの手口を繰り返し、運営費約4900万円を着服していた。園には出納担当の職員もいたが、経費の管理は元園長が実質的に行っており、職員が内部告発するまで表面化しなかった。
カネ絡みの不祥事が相次ぐ背景には、社会福祉法人トップへの権力集中が浮かぶ。不正を未然に防ぐための手立てはあるのか。
前出の男性理事は「不正が明るみになれば社会福祉法人のマイナスイメージにもつながる。資金の管理を理事長らトップだけに任せるのは避けるべきだ」と指摘。「社会福祉法人だけでなく、行政による指導・監督権限を強化しなければ不適切な行為はなくならないだろう」と話した。