安倍首相「消費増税2年半延期」 同日選巡り政権内に溝

首相「消費増税2年半延期」 同日選巡り政権内に溝

麻生副総理公言で露呈

 安倍晋三首相が政権幹部に、来年4月の消費税率引き上げを2年半延期する考えを伝えたことを機に、夏の参院選と同時に衆院選を行う衆参同日選の必要性をめぐる政権内の溝が表面化した。麻生太郎副総理兼財務相が同日選実施を公言したことで、消費増税という政策論にとどまらず、政権内の主導権争いに発展しつつある。

 「解散は幹事長や副総理ではなく首相の専権事項だ。我々は意見を申し上げただけだ」

 麻生氏は29日、富山市内での会合で、あくまでも解散権は安倍首相の手にあることを強調した。そのうえで、消費増税の再延期については「アベノミクスが失敗したから延ばすのではないかと言われ、参院選の候補者は厳しくなる」と述べ、同日選の必要性を訴えた。

 安倍政権内では以前から、消費増税を再延期する場合は、解散して民意を問うべきだと「筋論」を主張する麻生氏と、「与党が3分の2以上を持つ衆院の議席を減らすだけだ」と解散に慎重な菅義偉官房長官との意見の違いが尾を引いてきた。麻生氏の主戦論は自身の政権時代の経験も関係している。

 2008年の麻生政権時代、麻生氏は内閣支持率が高いうちの早期解散を模索していた。当時、自民党の選対副委員長として実務を担ってきたのが菅氏で、早期解散に反対した。その後、政権の支持率は落ち込み、麻生氏は衆院議員の任期満了直前の09年7月に解散したが、惨敗して政権転落に至った苦い経験がある。

 今回は安倍首相に麻生氏が解散を進言したが、菅氏は14年12月の前回衆院選から1年半しか経過していないなどとして慎重論を唱えてきた。最終決断する首相が両氏のいずれの判断を受け入れるかで、これまで結束してきた政権内の微妙なバランスが崩れる可能性がある。

 同日選論については、自民党内でも賛否が交錯する。下村博文総裁特別補佐は29日のフジテレビの番組で、野党の内閣不信任決議案の提出を受けた衆院解散について「解散権は首相の専権事項だが、50%はある」と述べた。別の幹部も「ここまでくれば五分五分ではないか」と漏らした。

 菅氏が同日選に否定的なのは、公明党との関係を重視し、参院選勝利を最優先としているためだ。

 公明党は、予定通りの消費増税を求めてきたが、延期時の軽減税率導入が確約されれば再延期は受け入れざるを得ないという見方が強い。しかし、同日選については反対論が大勢だ。参院選で積極擁立したこともあり、情勢が厳しい選挙区もある。衆院選も加わることはなんとしても避けたい意向が強い。山口那津男代表は29日、徳島市内で記者団に対し、首相との24日の会談に触れて「同日選は党首会談で、解散の『か』の字もないと首相が言われた。それをそのまま受けとめている」とけん制した。公明党幹部は「公明党は衆院解散となると大変な騒ぎになる。最後まで抵抗する」と指摘した。

 首相が増税延期の期間を19年10月までと提案したことについては、19年春の統一地方選、同年夏の参院選への影響を避けるためとの見方があるが、自民党総裁の任期が18年9月までという点も関係しているとの観測がある。増税延期の期限を自身の総裁任期の先に設定したことについて、自民党関係者は「総裁任期を延ばすための布石ではないか」と指摘する。別の自民党幹部は「なぜ2年半なのか、理由を国民に説明できるかが重要だ」と強調した。【高橋恵子、高橋克哉】

日本国債格下げ懸念

 安倍首相が消費税率引き上げを2年半先送りする考えを政府・与党幹部に伝えたことを受け、金融市場には景気を下支えするとの期待から「やや株価を押し上げる可能性がある」などとプラス効果を指摘する声がある。ただ、財政健全化が遠のくことによる日本国債の格下げ懸念など、マイナスの影響も少なくない。

 日銀の試算では、17年4月に予定通り消費税率を引き上げた場合、国内総生産(GDP)の実質成長率は増税前の駆け込み需要で16年度は0・4%押し上げられる。その反動と家計負担の増加で17年度は0・6%下押しされる。14年4月に消費税率を8%に引き上げた後、個人消費の低迷が長引いているだけに、17年4月の増税は景気を腰折れさせると株式市場などで心配されていた。増税再延期によって「当面の景気下振れリスクが減った」(市場関係者)と前向きに受け止める見方がある。

 しかし、財政健全化の遅れを不安視する声も根強い。政府は政策経費を借金に頼らずにどの程度賄えているかを示す基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)を20年度に黒字化する目標を掲げる。ただ、内閣府の試算では17年4月に増税しGDPの成長率が名目で3%以上、実質で2%以上としても6・5兆円の赤字となる見込み。すでに目標達成は難しく増税延期でさらに不透明感が増す。

 財政規律の緩みを懸念し日本国債の格付けが引き下げられるとの観測は強い。日銀が年間80兆円のペースで国債を購入しているため、格下げでも金利上昇は抑えられると見込まれている。だが、SMBC日興証券の末沢豪謙金融財政アナリストは「日銀が国債購入を減らした場合、国債金利が急上昇(価格が急落)するリスクが大きくなる」と指摘。国債に連動して企業や金融機関の社債も格下げとなるため、企業の資金調達に影響する可能性もある。

 増税分を財源に予定する社会保障政策に遅れが出るのも避けられない。増税分は、すべて社会保障の充実に充てることになっている。政府は来年度に増税したうえで、子育てや介護、年金の充実に2・8兆円を使う予定。しかし、再延期で財源が不足すれば実施はおぼつかなくなる。消費低迷の要因の一つには、年金など将来不安があるとされる。社会保障制度への不安が解消されなければ、消費低迷を長引かせる恐れもある。


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