三菱自、燃費データ不正 補償費「雪だるま」式拡大恐れ
三菱自動車の燃費データ不正問題への対策費用が“雪だるま”式に膨らむ可能性が出てきた。問題のある車の所有者や関係企業への補償が避けられないためで、補償の範囲や金額次第では三菱自の財務基盤の根幹を揺るがす恐れもある。
三菱自は、燃費データを意図的に改竄(かいざん)していたことが判明した軽自動車「eKワゴン」など4車種のユーザーに対する補償の検討をまず優先している。対象は、平成25年6月以降に生産した、供給先の日産自動車の販売分を含めた合計62万5千台。三菱自は、問題のあった車の保有者に対し余分に払ったガソリン代を補償する意向という。
問題車両は中古車としての価値下落が確実なことから、問題発覚後の値下がり分も考慮した補償も検討する。加えて不正判明車種は「エコカー減税」対象だったことから、今後の調査で実際の燃費が悪かったことが分かれば減税対象から外れるため、三菱自が追加納税分の全額を支払うことになる。
野村証券は、こうしたガソリン代やエコカー減税の補償だけでも費用は計425億~1040億円にのぼると試算している。
対策費は保有者向けにとどまらず、関係企業に対する補償も必要になる。日産は今回の三菱自の不正で軽自動車の販売停止に追い込まれており、日産の販売店では軽を売れない「機会損失」の形で影響が顕在化している。今後、日産に対する損失穴埋めなどで費用が膨らむ可能性もある。
三菱自の下請け部品メーカーへの損失補償も避けられない。三菱自は今回の問題で軽自動車を生産していた水島製作所(岡山県倉敷市)の操業を停止している。同製作所には主に岡山県内の下請け企業が部品を供給しており、取引先の操業にも影響が生じている。三菱自では不正問題に関する第三者委員会の調査は7月頃までかかるとしており、取引先の個別の状況に応じて、支援の詳細を詰める方針だ。
一方、三菱自では、軽4車種のデータ改竄のほかにも、過去25年間にわたり道路運送車両法の規定と異なる方法で燃費を計測する不正も判明している。この問題でも何らかの補償を迫られる可能性もありそうだ。
三菱自の28年3月末の現預金は約4600億円あり財務余力は小さくない。ただ、問題となった不正車種の買い取りを求める声も高まりつつあり、実際に応じれば費用は数千億円にのぼるとみられる。
三菱自販売店潜入ルポ 販売現場から悲鳴噴出 謝罪繰り返し“お通夜”ムード
軽自動車「eKワゴン」などの燃費データの改竄(かいざん)が発覚し、三菱自動車が苦境に陥っている。売れ筋だった軽自動車の4月1日~27日の販売台数は、前年同期比約4割減の約1400台にとどまるなど、深刻な客離れに見舞われているのだ。販売の現場からは「先行きが不安」と悲鳴が噴出。閑古鳥が鳴く東京都内の販売店では従業員が謝罪を繰り返すなど、お通夜のような暗いムードが漂っていた。“eKショック”に揺れる現場を歩いた。
存亡の危機に陥っている三菱自だが、販売店の現場はどうなっているのか。都内のオフィス街にある店舗を訪れた。
ガラス張りのショールームには客が1人もおらず、男性スタッフ1人、女性スタッフ2人が所在なさげにたたずむ。
連休前のお昼時。ランチタイムを楽しもうと一斉にビルから出てくるサラリーマンやOLたちのにぎわいとは対照的な光景だ。
ドアを開けると、女性スタッフがやや驚いた表情を浮かべた。客が来たことが意外だったようだ。
商品説明を担当する男性スタッフが応対し、席を用意してくれた。こちらから水を向ける間もなく、男性は即座に「このたびは申し訳ございません」と、頭を下げた。
問題となっている「eKシリーズ」は現在、発売が中止されている。
男性にほかの車種の購入を相談したところ、「別の車も現在、(燃費データ不正の有無を)調査しているところです」という。
「と、いうことは今は買わないほうがいい?」という質問に「そうですね…ゴールデンウイーク明けにはメーカーから連絡があるかと思いますので」と男性。
安心して売ることができないジレンマに苦しめられているようだ。
別の店舗では男性スタッフ2人から応対されたが、はなから売る気がないのか、イスすら勧められなかった。
販売店からメーカーの三菱自にはどんな声が届いているのか。
同社広報部は、「販売店からは『今後も精いっぱいお客さまの対応にあたりたい。ただ、先行きには不安もある』との声も届いている」と明かした。
影響ははっきりと出始めた。相川哲郎社長は27日の記者会見で、データ改竄を公表した20日以前と比べ、軽自動車と登録車の合計で「受注が半減した」と説明した。
受注は顧客が注文書に押印した時点の台数で、販売は納車の直前、車両を軽自動車検査協会に届けるなどした時点の台数。受注が半減した影響は、その後の販売台数に表れる。受注後のキャンセルも出ており、販売減は長期化しそうだ。
三菱自は改竄があった「eKワゴン」など2車種の販売を20日に停止しているが、この2車種は同社の軽自動車販売の約7割を占めていただけに、ダメージは大。熊本地震で取引先企業の工場が操業停止に追い込まれた影響も出たようだ。
三菱自動車不正 開発部門に強いプレッシャー「物を言えない環境では」部長級2人退職“事件”も
三菱自動車の燃費データ不正問題で、燃費目標の達成に向け、開発部門に強いプレッシャーがかかり、データの不正操作につながった可能性があることが23日、分かった。昨年にも新型車の担当者が開発状況を正確に報告せず、投入が遅れるという事態が発生しており、不正を生む構造的な体質がなかったかどうかが今後の焦点になりそうだ。三菱自は週明けにも第三者委員会を設置し、原因究明を進める方針。
「部長1人の判断でやるなんてことがあるのか」
三菱自関係者は、20日の会社側の会見で、不正操作について「当時の性能実験部長が『私が指示した』と言っている」と説明したことに疑問を投げかけた。
性能実験部は燃費の測定などが主な業務。目標燃費の達成や難しさについては、同じ開発本部の性能に関わる部署なども把握していた可能性がある。
三菱自は平成23年に日産自動車と軽自動車の合弁会社を設立、開発の実務を担当した。新型車は競合他社に対抗できる燃費が必要。日産の期待は高く、目標達成が求められていた。
投入した新型「eKワゴン」の燃費はガソリン1リットル当たり29・2キロで、まさに社内目標通り。だが、それは不正操作によって作られたものだった。
「開発部門の社員は物を言えない環境で厳しい状況に置かれていないか」
不正発覚後初となった21日の三菱自の企業倫理委員会はこう指摘している。
昨年には、28年度に発売を予定していた主力車種について、開発担当が軽量化などの進捗の遅れを適切に上司に報告していなかったことが発覚。車の投入が遅れ、担当の部長級社員2人が諭旨退職になった。
さらに今回、データを操作した4車種以外の車種でも法令と異なる測定方法を使用したことが判明。業界関係者は「測定時間の短縮などにつながるから使用したのだろう」と説明する。
経営陣や上司の目標達成の圧力について、三菱自幹部は20日の会見で「技術的な確かさがないものについて『それでいけ』ということはない」と述べるなど、否定している。
三菱自不正 会見詳報(5完)「問題を起こした元実験部長は現在60代の『シニア社員』」
--性能実験部は、実験結果のみを開発陣に公表する部署ではないのか。なぜ性能実験部が不正をやる必要がどこにある
横幕開発本部長「性能実験部は開発本部の中でも開発目標に対して、いわゆるキャリブレーション(測定)を行う部であります。ただ、車両ですとか他の要素もありますが、最終的な燃費排ガスを管理している部署ですので、キャリブレーションという形で目標にどのようにチューニングして出していくのかという部署でもあります。キャリブレーションするにあたっては、いろんなエンジンとかの技術要素は設計から改善案とか提供されて、試験の中でキャリブレーションをするという流れです」
--部長の不正については、どこでいつ何回確認されているのか
横幕開発本部長「部長が行った不正という簡単な整理ではなく、徹底的な調査をしていきたい。どこで行われたかは、開発の後期においてキャリブレーション(測定)の中で最終的な排ガス測定、岡崎の開発本部でいつかは分からない。各車種において排ガス燃費データを出す。今回排ガスと燃費の平均値で出すが、今回でていない。年式と車種というかけ算の件数が試験結果がある。少なくとも4回以上は操作があるはず。車種類別がややこしいが、5車種で年式も入れて、走行抵抗を出すタイミングは5回あったはず」
--実験部長の年齢、性別は
横幕開発本部長「男性部長は現在年齢のデータは60代。男性です」
--性能実験部からもっと燃費のいいものを作り直せと指示はできなかったのか。技術の三菱自動車ではなかったのか
中尾副社長「おっしゃる通り。それは設計にもう少しこういったものを作れと言う指示はできるはずなんです。そうすべきだったと思っている。今そういう風な事態を招いているので、当社に技術力があるとかはいえない」
--当該社員は実験部長のあとのポストは
横幕開発本部長「第一性能実験部長の後はシニア社員ということで、技術指導をする立場の社員にありました。設計マスターと呼んでいた、社内の呼称ですが」
--燃費ということを開発目標として強く意識していたということか。もう後戻りできないまでに追い込まれた
横幕開発本部長「性能実験部が(新車開発に)携わるのは、開発の後期でございます。後戻りできないと言うことはなく、販売日程から開発日程を戻す形になるので、もう戻れないとかではない」
--改ざんデータを信じて購入したユーザーは多い。今後、どんな処罰が下るか
相川社長「誤った方法で販売されていることについては、早急にデータをとって相談したい。販売停止であるか、あるいは他の処罰であるか、我々は判断つきません。国交省の指示に従います」
《会見開始から約2時間が経過。質問が出尽くしたと判断した国土交通省の担当者が会見終了をうながす。社長、副社長、開発本部長の3人は堅い表情を崩さずに会見場を後にした》