新車が売れない時代に出口はあるか?

新車が売れない時代に出口はあるか?

新車が売れていない。日本自動車販売協会連合会(自販連)の調査によれば、軽自動車と登録車(軽以外の乗用車)を合わせた2015年通年の新車販売は対前年比で90.7%。2016年は1月〜3月の累計で対前年比93.2%。2015年はかろうじて500万台超えはしているが、2016年の推移を見ると間違いなく500万台を割るだろう。その上、2017年4月に政府が消費税率の引き上げを強行すれば、自動車業界はちょっとしたパニックに陥る可能性がある。

 さらに追い打ちをかけるように、「エコカー減税」の期限がやってくる。こうした時限減税は麻薬のようなもので、制度が終わるときに禁断症状に苦しむことになるのは最初から分かっていることだ。その痛みを恐れて、これまでも繰り返し期間の延長が行われてきた。

 現在のところ2017年3月末(重量税は4月末)までということになっているが、そこはまさに消費税引き上げと見事な相乗効果を発揮するタイミングだ。消費税率アップと引き替えに取得税が廃止になるものの、市場のショックを考えるととても楽観的にはなれない。本当に税率改定のプログラムをすべて予定通りに行ったら、国内新車販売は今以上の急減速に見舞われるだろう。政府には日本経済をつぶしたい意図はないだろうから、エコカー減税はまたもや期限の延長をするしかない。どうにも泥縄だ。

●日本の基幹産業のゆくえ

 国を挙げて憂慮するのは、自動車産業は日本の基幹産業であり、不振ともなれば日本経済を直撃する可能性が高いからだ。つまり経済的打撃が全国民に広がり、国力にも影響を与える可能性がある。それは非常に憂慮すべき問題である。

 しかし、政府が自動車メーカーだけに特別振興策を設けて優遇する制度は自由な競争を阻害するという意味で望ましくない。日本にとって大事な産業であればこそ、ぬるま湯に浸らせるのはマズいのだ。実際燃費の改ざん問題もこのエコカー減税制度と密接に結び付いている。正しい競争と研鑽の中で発展させないと、産業としてダメになってしまう。できるなら、自動車メーカーは正攻法の自助努力によって、安定的にヒットモデルを生み出し、この苦境を乗り越えてほしいと思う。

 もちろん、どのメーカーもヒットモデルは喉から手が出るほどほしい。今後のグローバルマーケットを担うのはベーシックなBセグメントなのは明白だ。しかし一方で、日本のマーケットで何をヒットモデルに育て得るのだろうか。

 ここ数年の推移を見ると、直近までエースの座を担ってきたのは軽自動車だった。衝突安全基準の改定によってサイズが大型化し、機能がどんどん充実した結果、販売価格も上がり、利幅もそこそこ取れるようになった。ところが、この稼ぎ頭が昨年4月の軽自動車税の引き上げで勢いを失った。登録車(軽自動車以外のクルマ)から見れば「軽自動車は優遇されすぎだ」という話になるが、本来的には登録車の税が高すぎるのだ。一方で産業保護のためと言ってエコカー減税を行いながら、軽自動車が売れ始めると増税で勢いを削ぐ。このあたりは政府のやりたいことがまったく分からない。翻弄(ほんろう)されるメーカーが気の毒になる。

●台数減、利益率減の中で

 さてヒットモデルの話に戻る。はっきりしているのは、この先当分、大きいクルマが売れる時代ではないということだろう。日本の自動車に最も勢いがあった1980年代はカローラ、サニー、シビック、ファミリア、ミラージュと言った各社のCセグメントが売れていた上に、ひとつ上のDセグメントのコロナ、ブルーバード、アコード、カペラ、ギャランなども好調でだった。

 現在これらCセグメント、Dセグメントは火が消えたような状態で、車種そのものが途絶えているケースも多い。ただし、CセグメントやDセグメントの燃費は大きく改善されており、ハイブリッドやディーゼルともなれば実効燃費で20キロくらい走るクルマも少なくない。実は既に大きなクルマが一概に燃費が悪いと言えなくなってきているのだが、実態と関係ないところで、もはや「大きいクルマに乗ることはアンチエコで、時代遅れ」という風潮になっている。そんな風潮と関係なくクルマにプレミアムを求め続ける層はもちろんいるが、残念ながら輸入車に流れるケースも多い。国内メーカーが利幅の大きいCセグとDセグを売ろうにも誰に向けてどんなクルマを作ったらいいのか分からず、具体的に打つ手が見えない状態が続いているのだ。

 その結果、かつてのC、Dセグメントのユーザーのかなりの数がヴィッツ、フィット、デミオあたりのBセグメントに下りてくる。こうしたダウングレードの顧客には、小型車が宿命的に持つ貧乏臭さをどう払拭するかが鍵となる。

 逆に、軽自動車から上がってくる層もいる。実際、トヨタは軽から移行する層にぶつけるために通常のBセグメントより小さいパッソをモデルチェンジして備えを固めた。こうした層に対しては、軽自動車でなくBセグメントを選ぶだけの理由が必要だ。しかしながら問題はこのクラスのクルマは利益率が低い。台数的に縮小、利幅も減るのではメーカー各社の決算への影響が避けられなくなるだろう。

●果たして救世主は現れるか?

 そうしたさまざまな事情が奇しくも揃って指し示す先がこのクラスのプレミアムモデルであるBセグメントSUVなのだ。各社のラインアップを見てみよう。なお、価格は千円単位四捨五入である。

BセグメントSUV

・日産ジューク 2010年6月発売 174万円〜

・スバルXV 2012年10月発売 229万円〜(初代モデルは2010年6月)

・ホンダ・ヴェゼル 2013年12月発売 227万円〜

・マツダCX-3 2015年2月発売 238万円〜

・スズキ・エスクード 2015年10月発売 213万円〜

・トヨタC-HR 年内発売予定 価格未定

ベース車両

・日産マーチ 115万円〜

・スバル・インプレッサ 160万円〜

・ホンダ・フィット 130万円〜

・マツダ・デミオ 135万円〜

・スズキSX4 204万円〜

・トヨタC-HR 不明

 それぞれベースになったクルマと車両価格を比べて見るとその差は少なくない。中にはCX-3のように、デミオで選べるガソリンエンジン・モデルがラインアップされず、デミオでは高価格グレードにあたるディーゼルエンジン・モデルしかないというケースもあり直接比較しにくいこともあるが、このクラスが利幅を上げることを目的としたクラスである以上、意図的に廉価モデルを排除しているともとれ、それも差額の内に含めていいだろう。

 ベースモデルは背の低い5ドアハッチバック・ボディを持ち、従来からの小型車のイメージから抜け出せないのに対して、SUVモデルはどのクルマも明らかにデザイン優先のスタイリッシュなカタチで、明瞭な新しさがある。一言でいってしまえば貧乏臭くない。「小さいクルマには乗りたいが、あまりに貧乏臭いのは嫌だ」という層は一定数いる。筆者は個人的には曖昧な付加価値にお金を払うより、しっかりしたベーシックの方が好ましいと感じるタイプだが、恐らくそうでない人の方が比率としては多いのだろう。

 ベース車両よりスタイリッシュなボディを纏(まと)わせて高価格で販売するというのは1970年代から続く由緒正しいスペシャルティカーの手法だ。当時の無理やりクーペにしてパッケージ効率を落としたボディに比べれば、運転席からの見晴らしも良くなり、荷室も広くなるなどメリットも多い。

 ここから数年にわたって続く自動車産業の苦境において、果たしてこれらBセグメントSUVが救世主になるかどうか、慎重に見守っていきたい。

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