力久昌幸教授<スコットランド投票>なぜ独立反対派が勝利したか?

<スコットランド投票>なぜ独立反対派が勝利したか? 同志社大学・力久昌幸教授

イギリスからのスコットランド独立の是非をめぐって9月18日に実施された住民投票は、独立に反対が200万票あまり(約55%)、賛成が160万票あまり(約45%)となり、10ポイント差でスコットランドのイギリス残留が確定することになりました。それまで世論調査で独立反対派に20ポイント前後の差をつけられていた賛成派が、投票日の2週間前になって支持率を急速に上昇させて以降、独立への賛否が伯仲する緊迫した状況が続いていました。しかし、開票結果は投票日直前の世論調査結果(2~6ポイント差で反対派が優勢)を反映して、独立反対票が多数を占めることになったわけです。

■高齢者票

 それでは、なぜ住民投票で独立反対派が勝利することになったのでしょう。反対派の勝因については、まず年齢と独立への賛否の関係が注目されます。有権者を年齢で4つの層(24歳以下、25歳~39歳、40歳~59歳、60歳以上)に分けてみると、終盤の世論調査(YouGov)によれば、25歳~39歳の年齢層がもっとも独立を支持していた(賛成が反対を12ポイント上回る)のに対して、60歳以上の年齢層はもっとも独立に反対していました(反対が賛成を20ポイント上回る)。それに対して、24歳以下と40歳~59歳の年齢層では、それぞれ独立への賛否が伯仲していました。ということは、高齢者の反対が壮年層の賛成を上回ったということになります。

 なぜそうなったのかということについては、有権者に占める高齢者の割合が壮年層の割合よりも多かった(約28%対約23%)のに加えて、高齢者の投票率が壮年層の投票率をやや上回ったのではないかと思われます。独立によってそれまでの安定した年金給付が困難になるのではないかなどの今後の生活に関する高齢者の不安が、独立による生活水準の向上に関する青年層の期待を若干上回ったというわけです。

■女性票

 次に注目されるのは、独立への賛否をめぐる性差です。世論調査では、スコットランド独立に対する支持については、一貫して女性の支持が男性よりも低くなっていました。終盤の世論調査でも、男性では独立賛成が9ポイント高かったのに対して、女性では逆に反対が12ポイント高くなっていました。なぜ女性はスコットランド独立に懐疑的なのか、という疑問についてはっきりした理由はまだ明らかになっていませんが、一般に女性は男性より大きな変化を嫌うやや保守的な態度を持っているとされることが、今回の住民投票の結果にも影響を与えたのではないかと推測されます。なお、日本と同様にスコットランドでも有権者に占める女性の割合がやや高くなっていますので、女性の反対が多かったことは住民投票の行方に大きな影響を与えたことは間違いないでしょう。

■労働党支持層

 三番目の理由として注目されるのは労働党支持層の投票意図の変化です。伝統的に労働党はスコットランドで多くの支持を集めてきました。スコットランド独立の問題については、労働党支持層の多くは党の方針を反映して反対の立場をとっていました。ところが、住民投票の投票日が迫るなか、それまで独立に反対してきた労働党支持層の一部が賛成に変わり、それが投票日の2週間前になってそれまで20ポイント前後あった賛否の差が伯仲するまでに接近した一因だとされています。こうした労働党支持層の離反の動きに対して、それまで動きが鈍いとされてきた反対派の運動に活力を与えたのが前首相ゴードン・ブラウンでした。

 スコットランド出身のブラウン前首相は、2010年総選挙で政権を失って以来、目立った政治活動をしていませんでした。しかし、スコットランド独立の可能性が現実視されるようになって以来、ブラウン前首相はスコットランドの各地を回って独立賛成派に対する容赦ない批判を行い、失われた労働党支持層をある程度独立反対派に取り戻すことに成功したようです。また、ブラウン前首相のイニシアティヴによって、住民投票否決後のスコットランドに対する財政権限を中心とする自治権拡大の道筋が示されたことも、独立反対に対する支持拡大に貢献したと思われます。

■住民投票の影響

 住民投票の結果は独立否決となったわけですが、他方で半数近い人々がスコットランド独立を求めたことも明らかになりました。まさに独立の問題をめぐってスコットランドが二つに割れていることが示されたわけです。独立をめぐる亀裂は、夫婦や親子、兄弟など多くの家族の中に対立をもたらしました。今後は、独立の賛否で割れたスコットランドの人々をどのようにして再び統合していくのか、という難しい課題にイギリス政府およびスコットランド国民党を含めた主要政党は真摯に向き合うことが求められるでしょう。その第一歩は、スコットランドへのさらなる自治権拡大に向けて、超党派の協力が実現できるかどうかにかかっているように思われます。

(力久昌幸/同志社大学法学部教授)

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