迫る年末の消費税10%判断 予定通りか、先送りか
安倍晋三首相(59)にとって今年後半の最重要課題は年末に判断する消費税率の再引き上げ問題だ。今年4月に5%から8%に引き上げられたのに続き、来年10月には10%に再び引き上げるかどうか。政府与党内からは予定通り再引き上げすべきとの声がある一方、8%から10%への移行期間が短く、景気への影響も懸念して再引き上げ時期の先送り論もくすぶっている。
4月の消費税増税に伴う駆け込み需要の反動減が影響し、13日発表の4~6月期の実質国内総生産(GDP)は年率6・8%減。前回(1997年)の増税直後の4~6月期を上回る落ち込みとなった。首相は「政府として冷静な経済分析を行いながら、しっかりと対応し、成長軌道に戻れるよう万全を期したい」と強調したが、反動減は「織り込み済み」(政府関係者)との声が少なくない。
むしろ、肝心なのは今後の景気の足取り。首相は消費税率の再引き上げの判断材料として7~9月期のGDPなどの経済指標を見極める構えだ。どこまで景気が持ち直しているか、仮に回復しつつあっても、再引き上げに耐えられる足腰の強い回復基調なのか-。
甘利明経済再生担当相(64)は20日、消費税率10%への再引き上げについて「ベストシナリオは予定通りに引き上げることだ」と指摘した。判断条件については「引き上げの影響を乗り越えていくだけの経済の力強さがあることが大事だ」と語った。2012年に成立した消費税増税法は4月に8%、来年10月には10%と段階的に引き上げる方針を定めているが、付則で経済状況の好転が増税の条件としている。
同法成立時に野党の自民党総裁だった谷垣禎一法相(69)も「8%から10%に持っていけない状況が生まれると、(首相の経済政策)『アベノミクス』は成功しなかったとみられる可能性がある」と述べ、予定通りの引き上げを求めた。
麻生太郎副総理兼財務相(73)は「今は苦い薬でも将来は良くなるという確信の下で約束したことを実行し、国民の信頼を得てきている」と力説する。
「予定通り10%」論が目立つのは消費税率引き上げは国際公約で、先送りすれば財政再建面から日本の国際的な信用が失墜しかねないというリスクを抱えているからだ。
その一方で、首相は再引き上げ時期を先送りするのではないかとの見方もくすぶる。8%から10%への再引き上げ期間が1年半と短く、足取りのおぼつかない景気を失速させる致命傷になりかねないとの懸念が消えないためだ。
ある与党幹部は年末の再引き上げ決定が来年春の統一地方選に影響することを懸念し、「15年10月となっている再引き上げ時期を半年程度遅らせる判断があってもいいのではないか」とこぼす。与党税制協議会による各種関係団体を対象とした軽減税率のヒアリングでも税率の切り替え手続きの煩雑さを念頭に、「再引き上げまでの時期が短い」との声が出された。
首相は景気を成長軌道に乗せるため、アベノミクス効果が浸透しきれていない地方経済の活性化が今後の狙いどころと見定めている。好調な企業収益が賃金や雇用を改善し、個人消費や設備投資の向上につながる。この好循環を「全国津々浦々に行き渡らせる」(首相)には、地方活性化は不可欠というわけだ。
統一地方選に向けた「仕込み」でもあるが、地方の活性化は一筋縄ではいかない。手をこまねいているうちに、16年夏の参院選、その前と想定される衆院選が刻々と迫る。10%再引き上げの判断は衆院解散のタイミングとも絡むだけに、景況感の見極めに加え、政局をにらんだ高度な政治判断が首相に求められる。